COLUMN 2016.02.29

かっこ良く、楽しく「倉庫」を使いこなす文化を創るために 1/2

インタビュイー:太刀川瑛弼(デザインストラテジスト/NOSIGNER代表)、池田浩大(Re-SOHKO inc.社長)
インタビュアー:田中元子(建築コミュニケーター/mosaki)
編集・写真:大西正紀(mosaki)

 

倉庫の一室につくられた、小さな黒い箱のワケ

— 池田さんと太刀川さんとの出会いは、どういうきかっけだったのですか。

 

池田:ある日、太刀川さんがデザインされた「Mozilla Factory」のオフィスのインテリアをメディアで拝見したら、そこにプラスチック製のパレット、「プラパレ」が使われていて驚いたんです。倉庫に携わる僕らは、パレットには日々触れています。木製パレットを使ったデザインは見たことがありましたが、プラスチック製の活用事例は見たことがなかった。しかも、色使いも素敵だったんですよ。それで嬉しくなって、すぐにこの人にとりあえず会いたくなりました。

 

— どうして木製ではなくプラスチック製だったのですか。

 

太刀川:Mozillaは、オープンソースでFirefoxを提供している世界最大級のオープンソースのコミュニティです。彼らはそのオフィスで様々なクリエーターとコラボレーションしています。だから、そういう人たちの場所は、いつも何かをつくっているような空気で満たしたかった。だから、オープンソースで誰でも図面をコピーできるオフィスデザインを作ろうと思ったんです。誰でも真似できることが大切なので、どこにでもある安いプラスチック製のパレットを使って、オフィスデザインをつくっています。

 

— 確かにパレットって、誰もが見たことがあるものですよね。さらに、クリエイティブでかつ未完成の記号のひとつになっています。

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太刀川:そう、クリエイティブな空間は、未完成の空気をまとっていることが、肝心だと思います。デザインというものは、どうしても完成度が求められがちだけど、未完であるクオリティーってものもある。未完だからかっこいいものを、あの空間ではつくりたかったんです。

 

— 池田さんが展開されている倉庫の活用というものも、完成形を提案するのではなく、“そこで何ができるか”という未完を提示していますよね。とても共通するテーマです。

 

池田:僕らはデザイン会社ではないので、基本キャンバスを提供するようなものです。色づけして、最後に完成させるのはお客さまで、そのお手伝いをするわけです。

 

— 太刀川さんにお会いされて、最初に何を依頼されたのですか。

 

池田:最初は「Mozilla Factory」のように、この倉庫の一室をリノベーションしてくださいという依頼だったんです。そうしたら、話しているうちにどんどん話が飛躍して、大きくなっていってしまって(笑)。

 

太刀川:池田さんたちが、倉庫を通してされようとしてきたこと、これからされようとしていることが面白すぎたんですよ。倉庫には倉庫以外の空間への可能性があって、それをさらに拡張したいと池田さんは全身でおっしゃっていて、そこにとても感化されました。

一方で、僕は、そもそも東京にはもっとクリエイティブな空間が必要だと思っていました。たとえば、僕がクリエイティブなオフィス空間と聞いてパッと思いつくのは、ロサンゼルスにあった、かつてのイームズのオフィスなんです。で、イームズのオフィスってまさに倉庫なんですよ! 倉庫をリノベーションしたクリエイティブなオフィス空間は西海岸にたくさんありますが、系譜を辿ると、イームズのミッドセンチュリー以降から歴史的にもずっとつながっているんです。

そういった、クリエイティブな空間を沢山生み出したいという気持ちに共感したからこそ、今回は、ただリノベーションするのではなくて、さらに可能性を拡張するためのものつくろうとシフトしていきました。

できるならインパクトのあるものをつくりたい。けど、この小さな空間をメチャクチャ格好良くして、世界で話題になるってことは、あまり想像できませんでした。だったら、もっと小さいものにして、その代わりメチャクチャとがったことをやりましょうと(笑)。

 

— 面白いですね。つくったものは、この部屋をリノベーションすることより、ものの大きさとしては小さい。でも発信力が強いものを、と。ただのリノベーションの依頼が、そんなふうに進みはじめて、池田さんはどう感じていましたか。

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池田:正直言って、そのときはよくわからなかったです(笑)。

僕は倉庫屋の息子で、この世界に入って18年目。ずっと空室対策に悩みながら、必死でやってきました。そして、倉庫のことを掘り下げていって、建築的なモノの見方や考え方に出会って、いろんな視点を持てば、倉庫には物流だけではない、いろんな可能性があるんじゃないか、といろんなチャレンジをしてきました。お客さまや建築家、デザイナーなど、面白い人に出会えると、自分がやりたかったことは、こういうことだったかと気付かされることがたくさんあるんです。太刀川さんとも、まさにそんな感じでした。

打合せを重ねる中で、自動運転のトラックやアマゾンの倉庫のピッキングロボットに見られるように、これからの物流がどんどんロボット化されていくという話をしていたんです。あるとき、僕の部屋にトランスフォーマーのオモチャが置いてあって、コンテナヘッドがトランスフォームして、自動運転のフォークリフトが貨物を下ろし、そのままロボットがピッキングしていく、そんな妄想を話し合ったことがありました。

すると、次の打合せで太刀川さんがニコニコしながら持ってきたのが、ここにできた「Re-SOHKO TRANSFORM BOX(リソーコトランスフォームボックス)」の原型だったわけです。

 

— この「Re-SOHKO TRANSFORM BOX」は、何よりもさまざまな人の居場所になるというところが、とても面白いですよね。さらにオープンソースプロダクトなのですね。

 

太刀川:そうなんです。デジタルに向かう、ロボットに向かう、物流が変わっていくという未来への軸の話とは別に、今求められているデザインは、よりプリミティブなものだと思います。そういう方向へ向かうときには、冒頭に話した未完のクオリティーのようなものが機能する。時代もそっちの方向に進んでいます。

だからこそ、まず、この場所に倉庫空間をクリエイティブに活用できるオープンソースのデザインを集めていくことにしました。そのオリジナルの第一弾が「Re-SOHKO TRANSFORM BOX」です。他のデザイナーのものも加わっていって、そういうソースは、ウェブサイト「OPEN SOHKO DESIGN(オープンソーコデザイン)」によって発信されます。この倉庫空間とウェブサイトによって、倉庫空間のクリエイティブな活用が世界に広がっていく景色が見られると思います。

 

今、オープンソースを発信すること

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— ひとつの箱がさまざまに展開して、いろんな居場所をつくることができる「Re-SOHKO TRANSFORM BOX(リソーコトランスフォームボックス)」をはじめ、倉庫を楽しく活用できるさまざまなオープンソースが発信されていくポータルメディア「OPEN SOHKO DESIGN(オープンソーコデザイン)」は、どのようなものなのですか。

 

太刀川:まず倉庫空間(ウェアハウス)を様々な人にクリエイティブに使いこなしてもらうための、さまざまな情報やオープンソースなインテリアのデザインを載せていくオウンドメディアをつくろうということになりました。
たとえば、ここには今日僕らが座っているエンツォ・マーリの椅子やテーブルがありますが、これらは1974年に図面が公開されて、すべてオープンソースとなっているので、公開されている図面を使えば、誰でもつくれてしまう。昔は紙の図面だったけど、今はウェブでやってしまえば、当時よりもっともっと広げられるわけです。

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オープンソースはクリエーターからすると自分がつくったデザインが他にコピーされるので、儲からないじゃないか、とネガティブに誤解されてしまう部分があります。実際には、オープンソースと同様に共有されている施工方法はたくさんありますし、設計は一度きりのことが多いのでオープンソースにしても困らないものは多いんです。今回の場合、倉庫をかっこよく使いたい人へオープンソースなデザインを発信することで、かっこいい場所が街に増えていけばいいし、リソーコさんからすれば、倉庫文化全体に新しい風を吹かせることができる。それは最終的にはきっとお互いにとっての価値になるはずです。
オープンソースというものも、使い方次第なんです。このサイトはプラットフォームとして、いろんなクリエーターが無理のない形で参画できるようになっていきたい。このメディアのオープンソースから小さな設計料がきちんと出る仕組みなどもつくることができると思います。

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デザインをすべて知財にしてしまうと、文化が広がる流動性が下がります。実は、それはとても危険なことなんですね。知財という概念はこの300年程度のものなので、知財を誰かに独占された世界がどうなるか、それは分からないんです。ちなみに建築は、今でもずっとオープンソースです。建築の雑誌では、建築のディテールが公開されていることが多い。あれも実際のところはオープンソースでしょう。
改めて、オープンソースだと宣言することがデザイナーや建築家にとってのメリットになることもあり得ます。今回アップロードしたものの中に、みかんぐみさんが設計したテーブルがあります。三角コーンをつかったものですが、これはもう10年以上前に設計されたものです。そういう過去につくったディテールが復活して、日本だけではなく世界中の人たちが使ってくれるかもしれません。そういうふうに埋もれてしまっているデザインを、このサイトを通して発信し、オープン倉庫のムーブメントにつなげていければ面白いと思います。

 

— まさにこのサイトが、“クリエイティブの港”になるわけですね。デザイナーにとっては、こうして埋もれていたデザインが日常にとけ込んで使われていくことは、どんなことよりも嬉しいことだと思います。

 

太刀川:そして、このメディアのアイコンとして、実際にオープンソースの家具たちを見ることができる部屋がここに存在していて、カタログ的な場所になっていく。そうすれば、小さな部屋の階層でも、多くの倉庫空間を面白くするために役立つだろう、と考えたわけです。

 

— 日本人はガレージや倉庫に慣れていないけど、たとえばマンションに住んでいるという状況にいても、オープンソースの情報に触れれば、自分と倉庫がつながる可能性がどんどん近くなっていくような気がします。

 

太刀川:今回のプロジェクトは、倉庫をリノベーションするためのオープンデザインソースを発信するものだけど、ここで発信されるような倉庫的なかっこよさに憧れて、自分の住まいにこのサイトからピックアップした家具をつくってみる。僕はそういうことでいいと思うんです。この倉庫的美意識、未完の美意識のようなものが広がっていくことになればなって。

 

— それに倉庫に対する美的なイメージは、世界共通だから、そこも面白い。

 

太刀川:そう、倉庫はもともと面白かったんですよ!

 

— イームズやスティーブ・ジョブスのように、イノベーションが倉庫やガレージからはじまるといった伝説的なストーリーが海外にはありますよね。日本人もなんとなく倉庫にクリエイティビティを感じてる。それを今改めて、オープンソースという切り口から、日本から世界へ発信していこうとすることが、すごく面白いですね。

 

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プロフィール

太刀川 瑛弼(たちかわ えいすけ)

デザインイノベーションファームNOSIGNER代表。ソー シャルデザインイノベーション(社会に良い変化をもたらすためのデザイン)を生み出すことを理念に活動中。建築・グラフィック・プロダクト等のデザインへ の深い見識を活かし、複数の技術を相乗的に使った総合的なデザイン戦略を手がけるデザインストラテジスト。その手法は世界的にも評価されており、 Design for Asia Award大賞、PENTAWARDS PLATINUM、SDA 最優秀賞、DSA 空間デザイン優秀賞など国内外の主要なデザイン賞にて50以上の受賞を誇る。災害時に役立つデザインを共有する「OLIVE PROJECT」代表。内閣官房主催「クールジャパンムーブメント推進会議」コンセプトディレクターとして、クールジャパンミッション宣言「世界の課題を クリエイティブに解決する日本」の策定に貢献。 University of Saint Joseph / Department of Design 客員教授 慶応義塾大学SDM 非常勤講師 法政大学工学部建築学科 非常勤講師。

 

池田浩大(いけだ ひろお)

株式会社リソーコ 代表取締役社長。ディスプレイ会社勤務を経て、1920(大正9)年創業の倉庫会社・東京倉庫運輸入社。2006年、日本最大級の空き倉庫・物流不動産情報サイトを運営するイーソーコグループらとリソーコを設立し、代表取締役に就任。ヴィンテージ倉庫をクリエイティブオフィスやスタジオなどに転用する「倉庫リノベーション」事業を推進し、数多くのリノベーション事例の企画・コーディネートを手掛ける。第20回日経ニューオフィス賞「推進賞」「経済産業大臣賞」を受賞したTBWA博報堂オフィスのプロパティマネジメントや、ドイツデザイン賞2016「特別賞」を受賞したWALL CLOUDのプロデュースなどを担当。Amazonインテリアデザイン部門1位を獲得したムック『ウェアハウススタイル』(枻出版社)など、書籍のプロデュースも手掛ける。東京倉庫運輸取締役副社長、イーソーコ総合研究所取締役などを兼務。